会社を飛び出して初めて気づく『人間尊重の経営』

~同友会は特効薬ではなく漢方薬~

株式会社 コゥ・テック 代表取締役 溝脇 潤平 氏(大牟田支部)

株式会社 コゥ・テック
代表取締役 溝脇 潤平 氏(大牟田支部)

後継者として入社するも、父親のやり方に反発して飛び出してしまいます。 新しい会社で感じたこととは…

創業は昭和40年

「主に給排水設備の仕事をしています」と話し始めたのは大牟田市にある(株)コゥ・テックの代表取締役・溝脇潤平さんです。

 祖父が昭和40(1965)年に熊本県荒尾市水道局を退職後、中央水道工務店を創業しました。荒尾市は三井鉱山で活気づいていました。鉱山では市に先駆けて水道設備が施されていたという特異な歴史を持ちます。三井鉱山指定工事店にもなり業績を伸ばしていきます。

 昭和55(1980)年には父親が社長に就任し、隣接する大牟田市にもエリアを拡げていきました。父親は現場でたたき上げの職人気質の人です。

 平成3(1991)年に(株)コゥ・テックに改名します。「コゥ」は英語で“co”すなわち「共に」を意味する接頭辞と“technic”「技術」を合わせた造語です。「技術をもって、自社だけでなく業界が共に発展していくという願いを込めたと聞いています」と溝脇さんは話します。

 平成25(2013)年には市場を考慮して、本社を大牟田市に移転するのでした。

会社を飛び出す

 溝脇さんは荒尾市で生まれました。大学卒業時は就職氷河期に当たり、同業者で修行をする『他人の釜の飯を食う』ことなく、(株)コゥ・テックに入社しました。「もともと中学の時からアルバイトをしていたので、仕事の要領はわかっていましたし、社員のみなさんも知っていました。周りも社長の息子ということで気遣いもあったかもしれませんが……」。

 だんだん溝脇さんはわがままにふるまうようになっていきました。仕事が夜遅くに及ぶと父親に不満をぶつけるようになりました。ついに「やってられねぇ!」と会社を飛び出してしまうのでした。平成14(2002)年のことです。

 その後、知り合いのツテを頼ることなく熊本市内に移り、ハローワークで職を探しました。腕に覚えのある給排水の会社に就職します。同様の仕事をするのですが、会社が違うことで多くの発見がありました。「社員にとって社長の指示に従うということは『絶対』であることですね。また社員として、会社や仕事をどうすればよくなるかも考えるようになりました。同時に社長の気持ちもわかるようになりました。コゥ・テックで働いていた頃は悪いところばかり目につきましたが、逆にいいところが見えるようになりました。いずれは自分が継ぐであろうと考えていたのに……若気の至りでした」と振り返る溝脇さんでした。

復帰を決意する

 5年ほどして働いていた会社が廃業することがわかりました。溝脇さんはふとコゥ・テックに思いを馳せました。「コゥ・テックは将来どうなるのだろう。誰が継ぐのだろう」。たどり着いたのは、コゥ・テックに戻ろうということでした。

 溝脇さんは父親に頭を下げました。「正直言って、2・3発殴られるかと思いましたが、父は何も言わず了承してくれました」。社員のみなさんも温かく迎え入れてくれたと言います。「後に父の友人から聞いたのですが、私が帰ってきて本当に喜んでいたそうです」。こうして後継者として改めて再スタートしたのでした。

 溝脇さんは前にも増して一生懸命働きました。「物事は一朝一夕にはならないものです。時には現場で社員同士がぶつかることもありました。父は『俺について来い』というタイプでしたから、私は聞く耳をもって誠実に対応していきました」。

株式会社 コゥ・テック

父が定めた行動理念

 同社が長くお客様に支持される理由には父親が定めた行動理念があると溝脇さんは考えました。次の通りです。

① 我々は専門職業人としての誇りと知識をもって、日々研鑽に努める。
② 我々は顧客満足度の向上と適正利潤の追求に努める。
③ 我々は計画・実施・統制のもと、自発的・積極果敢に自らの任務を遂行する。

 現場における時間厳守や挨拶の徹底、自主的な清掃はこの理念が企業風土になっていきました。冬場の凍結時などではスピーディーな対応でお客様に喜ばれました。作業の終了時には「あと、何かお困りのことはございませんか」の一言も忘れません。

同友会との出会い

 同友会には取引先の(株)今村組の今村成剛さん(大牟田支部所属)に誘われ、平成27(2015)年に入会します。「自社の経営についてこんなに真剣に考える会があるんだと思いました」。
 学びを深める中で「人間尊重の経営」という言葉に触れ、自分に足りなかったピースが見つかったと実感したのでした。
 平成30(2018)年、社長に就任した直後に経営指針作成セミナーの門を叩きました。前述の行動理念を司る形で経営理念を策定しました。

株式会社 コゥ・テック

コゥ・テックは水回りのパートナーとして地域の方々に貢献する

この理念を父親に報告しました。「父は黙ってうなずいていました」。今回の取材で判明したことですが、父親はかつて同友会の例会にゲスト参加したことがありました。同友会に対する理解はあるようです。息子の成長を頼もしく思っていることでしょう。

 同友会における経営指針書は「理念・方針・計画・ビジョン」が必須要素となります。計画については現在作成中で、さらに就業規則も近々整備し直し、より強靭な経営体質に向けて取り組んでいるところです。

同友会は漢方薬

株式会社 コゥ・テック 代表取締役 溝脇 潤平 氏(大牟田支部)

「同友会の例会で毎回元気をもらっています」と溝脇さんは言います。

 「TTP(徹底的にパクる)という人もいますが、学んできたことを急に会社に落とし込むと、社員が戸惑うことにもなりかねません。同友会は特効薬ではなく、漢方薬です。長い歴史の中で確立し(経営)体質の改善を促していきます。じっくりと取り入れていこうと思います。社員さんたちは私の小さい頃を知っていますし、私の退社・再入社も知っているのです。私はまず社員のみなさんとのコミュニケーションを大切にしていこうと思っています。話していると、社員さんたちはお客様のこと、会社のことをよく考えてくださっていることがわかります」。

大牟田支部長として

 溝脇さんは令和5(2023)年度から大牟田支部長を務めます。支部についてお伺いしました。

 「若い世代も増えてきましたし後継者もいます。いい例会を開催して活気が出てくれば、会員ももっと増えてくるでしょう。まずはそこから始めていきたいです」。

社員と共にいい会社にしたい

株式会社 コゥ・テック

「私は同友会での『共育ち』という言葉が大好きです。社長と社員が共に育って会社をよくしていきます。社員教育については、昔は先輩から『盗め』と言われたものです。しかし、今どきの若い人には受け入れられません。ウチでは入社3年たったらスキル修得のため久留米の筑後配管設備高等職業訓練校に通ってもらいます。国の助成金と会社負担で全額補助となります。こうして早く一人前になってもらいたいと考えています」。

 取材の最後に溝脇さんの考える「自立型企業」についてお伺いしました。

 「同友会では『社員の創意や自主性が十分に発揮できる社風と理念が確立され、労使が共に育ちあい、高まりあいの意欲に燃え、活力に満ちた豊かな人間集団としての企業』と謳っています。うちはまだまだ発展途上ではありますが、社員とその家族が幸せになり、社員と共にいい会社を目指していく会社だと思います」と締めていただきました。

 取材協力ありがとうございます。

株式会社コゥ・テック

創業 1965年4月
住所 大牟田市長田町11-1
電話0944-55-1040
従業員数26名
URLhttps://kou-tekku.jp/
事業概要 給排水設備工事、水廻りリフォーム、浄化槽設備工事、換気空調設備工事、消防設備工事

取  材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写  真 富谷正弘(玄海支部)

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