「食肉」の「価値」を創造する

〜小さくても強い会社になる〜

まるよし食肉株式会社
代表取締役社長 荒木 良太郎 氏(青年支部)

3代目社長は、生き残るために自社の強みを継承しながら他社と差別化を図った戦略に挑みます。その中で同友会の学びが活かされていくのでした。

後継者として入社

 今回、取材班がお伺いしたのは筑紫野市二日市にある、まるよし食肉㈱です。代表取締役社長の荒木良太郎さんが、笑顔で迎えてくれました。昭和40(1965)年に祖父・良一さんが太宰府市五条で『まるよし精肉店』として創業しました。その後、肉の処理業・販売業に業態を変え、スーパーや販売店に卸しています。昭和60(1985)年に現在の地に移転してきました。2代目の父・良巳さんは病のため他界し、荒木さんが3代目になります。

 荒木さんは高校を卒業し、家業に入ります。「会長の孫が入社した」と周囲の期待はとても大きく、同業者の会にも顔を出していました。多感な時期でもあり、荒木さんはかなりのプレッシャーを感じていたと言います。一度は退職し家を出て飲食の世界に入った時期もあったそうです。23歳の時、改めて後継者として入社するのでした。

食肉の価値を創造する

 同友会には高校時代の友人の誘いで入会しました。26歳の時です。

 同友会の特徴的な活動である「あすなろ塾」や「経営指針作成セミナー」には33歳、専務時代に受講しました。策定した経営理念は次の通りです。

食肉の『価値』を『創造』する

 屠畜場で屠殺された牛や豚が枝肉、すなわち頭部・尾などを切り取り、皮や内臓をのぞいた状態で搬入されてきます。冷所で保管された枝肉は、背骨に沿って肩・背・腿などの部位に分かれていきます。この作業は包丁一本で行われるそうです。

 単に肉を右から左へ動かしているわけではなく、加工することでいかに価値を付けるかが、生き残るために必要だと考えます。

 「先代から『骨に肉を付けるな』と教えられました」と荒木さんは語ります。その教えは当然歩留まりの良さの追求があるのですが、「命を頂く者として丁寧に時間をかけて行いなさい」ということです。荒木さんも現場に入っていた時は、多少肉が残っていても時間の効率が良いと考えていましたが、経験を重ねるにつれ、その意味を実感するようになりました。

 課題は『技術の伝承』にあります。荒木さんは現在、原則として現場に立つことはありません。この技を持つ指導者が高齢となり、引き継ぐ社員が少なくなっています。現在は外国人の実習生が作業をしています。

社長に就任

 平成30(2018)年、3代目社長に就任します。34歳の時です。

「長いこと、No.2として働いていましたが、その間先代への不満を多く抱いていました。いざ自分がトップに立ってみると、見える景色は一変し、先代の苦労を理解できるようになりました。尊敬の念が増してきます」。

 そして自社の強みを『仕入れ力』と表現してくれました。

 創業以来、永きにわたって培ってきた仕入れ業者との信頼関係を指します。肉はいつも同じ状態とは限りません。自社の希望ばかりを言うのではなく、先方の思惑も受け入れることが信頼を構築すると言います。競り市場だけでなく、相対(取引)といって直接購入のルートも開いています。

 一方、弱みとしては『価格決定権』を持ちづらい点です。大手スーパーなどからは、足元を見られかねません。そこで荒木さんが今後の戦略を練ります。

自社での販売力をアップする

 『まるよし』で加工した肉を自社で売る、すなわちBtoC(小売り)することでノウハウが構築できて、販売の際の説得力が増します。それはまたBtoBにもいい影響をもたらすと考えています。

 そのためには、工場施設の見直しが必要となります。HACCP(ハサップ)認定を目指すうえでも考慮されることです。HACCPとは、「Hazard(危害)」「Analysis(分析)」「Critical(重要)」 「Control(管理)」 「Point(点)」 の5つの単語の頭文字に由来する、衛生管理の手法です。必須の条件となってきます。

 また最近では人手不足からスーパーのインストアのチルド(冷蔵)加工も求められたり、同業他社撤退による学校給食の需要比率が高まってきたりしています。「地域に必要とされているという実感があります」と荒木さんは語ります。

同友会での学び

 「同友会では、その時々での自社の経営課題を解決するヒントをいただいております」。

林田浩暢さん((資)若竹屋酒造場/りょうちく支部)の『迷子の3要素』(自社がどこにいるのか、どこに行くのか、どうやって行くのかという経営指針の考え方)、中村こずえさん((有)エス・ケイ・フーズ/長崎同友会)の『障がい者雇用』(障がい者に限らず、従業員の個性を活かす経営)、永峰智浩さん((有)永峰養豚場/宮崎同友会)の『経営者の覚悟』(養豚業における設備投資の考え方)など、大きな刺激と勇気をもらっていると言います。

支部長として

 青年支部に所属して12年目となり、現在支部長を務めています。「私が入会以来、今が最少の会員数です。マンパワーの不足を痛感しています。コロナ禍で2年ほど青年支部が得意とする『懇親会』での入会促進ができていないことが響いています」。支部長の方針としては、まず会員数のアップを目指しています。

 そして支部特有のイベント、障がい者支援『フレンドシップ・フェスティバル』も来年4月に3年ぶりに開催することが決まりました。

 「私自身が、楽しく支部長として、また経営者として活動することで、会員さんの中から『私も支部長をしてみたい』と手を挙げてくれるような雰囲気を作りたいと考えています」と熱く語ってくれました。

SDGsの取り組み

 現在の経営ではSDGsの取り組みも欠かせません。「SDGs17の目標」では、

2 飢餓をゼロに

   コロナ禍でも仕事を続け、食肉を提供をした。

5 ジェンダー平等を実現しよう

   雇用において反映させている。

8 働きがいも経済成長も

   同友会の「人を生かす経営」の実践。

12 つくる責任 つかう責任

   ゴミ、特に段ボールの分別リサイクル。

15 陸の豊かさも守ろう

   仕事そのものがこの目標の実践。

 またこれとは別に、地域への貢献として、お祭りへの参加や学校での招待給食に参加しています。「子どもたちと一緒に給食を食べるんですが、その前に苦労していることや命の尊さを話しています」。

小さくても強い会社

 取材の最後に、荒木さんが考える自立型企業についてお伺いしました。

 「小さくても強い会社だと思います」と即座に返ってきました。同友会では『強じんな経営体質』を、「全会員が経営指針を作成、実践し黒字企業をめざす」(冊子『同友会がよくわかる』P17)と定義しています。「労使見解にのっとり、従業員との信頼を構築していくこと。社内の環境を整備していくこと。みんなが同じベクトルで進んでいくことだと思います。強くなれば多少の波でも大丈夫ですね」と笑顔で締めていただきました。

 取材協力ありがとうございます。

まるよし食肉株式会社

創業 1965年1月
住所 筑紫野市二日市南3-7-5
電話092-922-6683
従業員数20名(うちパート10名)
URLhttps://maruyoshi-shokuniku.co.jp
事業概要 和牛・国産牛肉・国産豚肉・国産鶏肉などの食肉全般。またウインナーや豚足の加工品。

取  材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写  真 富谷正弘(玄海支部)

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