8月25日(火)に福岡県中小企業家同友会・中央支部合同ブロック例会「経営者読書会」が開催しました。
今回の指定書籍は「サービスマーケティング」。第7章と第8章を題材に、参加者それぞれの経験や自社での取り組みを交えながら、サービスとは何か、そして経営者としてどのようにサービスを設計し、現場へ落とし込んでいくべきかを話し合いました。
今回も、単に本の内容を確認するだけではなく、「自社だったらどう考えるか」「実際の現場ではどうなのか」という視点で議論が広がり、とても学びの多い読書会となりました。
【第7章 サービス・エンカウンターと「真実の瞬間」】
第7章で特に印象に残ったのが、「真実の瞬間」という考え方です。
サービスは、商品そのものだけで評価されるわけではありません。お客様が企業や従業員と接する一つひとつの場面、つまりサービス・エンカウンターが、その企業全体の印象を大きく左右します。
読書会の中では、「自分自身がお客様として接客を受けた際、印象に残った経験はあるか」という話になりました。
その中で、受講者の方から、スニーカーを購入したときの経験が紹介されました。
単純にサイズを確認して商品を渡すだけではなく、スタッフの方が靴の特徴やサイズ感、履き方による違いなどを丁寧に説明してくださったそうです。
同じ商品を購入するとしても、接客によって満足度が大きく変わるという意見に、参加者からも共感の声が上がりました。
一方で、海外へ行くと、日本とは異なり、もっとサバサバとした接客に出会うこともあります。
どちらが正しいということではなく、顧客が何を期待しているのか、その企業がどのようなサービスを提供すると決めているのかによって、求められる接点のあり方は変わります。
だからこそ、「どの接点を自社にとって最重要の真実の瞬間とするのか」を考えることが非常に重要なのだと思います。
例えば、足立支部長の会計士事務所では、お客様から「電話の取り方が良い」と褒めていただくことがあるそうです。
会計士事務所の商品や専門知識とは直接関係がないように見えますが、お客様にとって最初の接点が電話であれば、その電話対応も立派なサービスです。
最初の数十秒で、「この事務所なら安心できそうだ」と感じてもらえることがあります。
反対に、どれほど高度な専門サービスを提供していても、最初の対応で不安や不快感を与えてしまえば、その後の評価にも影響します。
私たち自身も、「自社にとって最も重要な真実の瞬間はどこなのか」「その前後の工程を会社全体として支えることができているのか」を改めて考える必要があると感じました。
【従業員に求められる5つの役割】
第7章では、サービスを提供する従業員の役割についても議論しました。
カウンセラー、コンサルタント、メディエイター、プロデューサー、アクターという5つの役割です。
サービスの現場では、単純に決められた仕事だけを行えばよいわけではありません。
お客様の悩みを聞き、状況を理解し、必要に応じて提案を行う。
ときには顧客と企業との間に入り、双方の利害を調整する。
さらに、その場の状況を見ながらサービス全体を組み立て、お客様の前では企業を代表する存在として振る舞う必要があります。
ここで議論になったのが、「ルール」と「現場の柔軟性」をどう両立するかという問題です。
企業としてルールを設けることは重要です。
しかし、すべてのお客様、すべての状況が同じではありません。
ルールを厳格に適用することで、かえってお客様に不利益を与える場面もあります。
ある程度、現場に判断の幅を持たせることも必要になります。
そこで出てきた問いが、
「現場裁量を広げれば、サービス品質のばらつきや顧客間の不公平が生まれる。このリスクと顧客への柔軟な対応をどう両立するのか」
「ルールを破ってでも対応すべき例外は、誰が、何を基準に判断するのか」
というものでした。
これには簡単な正解はありません。
そこで話題になったのが「フロネシス」という考え方です。
その場の状況を判断し、何が最善なのかを考え、行動する実践的な知恵。
マニュアルを増やすだけでは対応できない場面だからこそ、最終的には一人ひとりが「自社は何を大切にしている会社なのか」を理解していることが重要になります。
つまり、フロネシスを突き詰めていくと、最終的には企業理念へとつながっていくのではないか。
今回の議論の中でも非常に印象に残った部分でした。

【店は舞台、従業員は演者】
サービス・エンカウンターの演出と実行についても興味深い話がありました。
ある飲食店の経営者の言葉として、
「店は舞台であり、店員は演者である」
という話が紹介されました。
非常に分かりやすい表現だと思います。
店員が演者であるならば、その演者が力を発揮できる環境をつくるプロデューサーの存在も必要です。
接客する従業員個人の能力だけにサービス品質を任せてはいけません。
会社として、どのようなサービスを届けたいのか。
どのような言葉を使うのか。
お客様にどのような気持ちになっていただきたいのか。
そこまで設計し、教育していく必要があります。
アクターとなる従業員には、専門知識や技術だけではなく、共感力、顧客視点、言葉による表現力、表情や振る舞いといった非言語の表現力も求められます。
だからこそ、サービス業において「教育」は非常に重要なのだと感じます。
一方で、「お金を払っているのだから何をしてもよい」という考えのお客様がいた場合、どこまで対応するべきなのかという議論もありました。
サービスは企業だけで完成するものではなく、顧客もサービスの一部に参加する場合があります。
だからこそ、企業側の責任と顧客側に求める役割の境界線を決めておくことも、サービス設計の一つなのだと思います。
【第8章 サービス商品をどう設計するか】
第8章では、サービス商品の分類と設計について学びました。
サービスは、
「何に対してサービス活動を行うのか」
「有形の働きかけなのか、無形の働きかけなのか」
という視点から整理することができます。
ただし、大切なのは企業やサービスを一つの箱に分類することではありません。
同じ業種であっても、複数のサービスカテゴリーを持っている場合があります。
分類することで、顧客がどの程度参加するサービスなのか、どこで提供するのか、どのような設備や情報が必要なのか、そして顧客が何を基準に品質を判断するのかが見えやすくなります。
そこから議論になったのが、デジタル化です。
「デジタル化によって代替してよい顧客接点はどこなのか」
「逆に、残すべき対面の接点はどこなのか」
これは、今後ますます重要になるテーマだと感じます。
単純に「効率化できるからデジタルにする」という判断だけでは不十分です。
顧客にとっての便益、信頼性、企業側の効率、そして誰でもサービスを利用できる包摂性など、複数の視点から判断する必要があります。
【サービスを構成する4つの要素】
サービスを設計する際には、サービス全体をいくつかの構成要素に分けて考えることも重要です。
中心となるのが「コア・サービス」。
つまり、お客様が本当に購入している中心的な便益や結果です。
次に、コア・サービスを利用するために欠かせない「促進的サブ・サービス」。
さらに、顧客満足や差別化につながる「支援的サブ・サービス」。
そして、通常とは異なる事態が起きたときに対応する「コンティンジェント・サービス」です。
特に経営者として考えたいのが、
「お客様は、本当は何を買っているのか」
という問いです。
自社が販売している商品や作業そのものではなく、その先にある結果をお客様は購入しています。
その中心的な価値を明確にしたうえで、どのサービスが絶対に必要なのか、どのサービスが差別化につながるのか、そしてトラブル時にどのような対応をするのかを設計していく。
サービスを感覚的に提供するのではなく、一つの「商品」として構造化して考えることの重要性を学びました。
【サービス設計の5つの方向】
最後に、第8章ではサービス設計を変化させていく方向として、
サービス商品の広範化
シングル・サービス化
サービス・パッケージの束を解く
商品のシステム化・多角化
サービスのモノからの独立
という5つの方向について考えました。
自社が現在提供しているサービスも、当然ながら完成形ではありません。
顧客ニーズや社会環境、デジタル技術が変われば、サービスの組み合わせ方や提供方法も変化させる必要があります。
今回の第7章、第8章を通じて改めて感じたのは、「良いサービスは現場の努力だけではつくれない」ということです。
どこを「真実の瞬間」とするのか。
従業員にどこまで裁量を持たせるのか。
その判断基準となる理念を共有できているのか。
そして、お客様が本当に求めているコア・サービスは何なのか。
これらを経営者自身が考え、サービスとして設計し、その考えを現場へ伝えていく必要があります。
サービスマーケティングというと、お客様への接客方法を学ぶものという印象を持ちがちですが、実際には「会社そのものをどのように設計するか」という経営の話につながっていることを、今回の読書会を通じて改めて感じました。
次回の経営者読書会は、
9月29日(火) 17:00〜
指定書籍「サービスマーケティング」の第9章、第10章を取り上げます。
お申し込みは「e.doyu」からお願いいたします。
今回ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
次回も、それぞれの経営経験や自社での実践を持ち寄りながら、より深く学び合える時間になればと思います。