――マキャヴェリ『君主論』から考える「人を生かす経営」――

皆さま、こんにちは。
いちご会計事務所の足立です。
先日、マキャヴェリの『君主論』を読み返しました。
『君主論』というと、「目的のためなら手段を選ばない」といった、どこか冷たい印象を持たれる本かもしれません。
もちろん、その考え方をそのまま会社経営に持ち込むことには違和感があります。
私たち同友会がめざしているのは、人を支配する経営ではありません。社員を最も信頼できるパートナーと考え、共に育ち、共に会社をつくっていく「人を生かす経営」です。
ただ、『君主論』を読んでいて、一つ考えさせられたことがあります。
それは、「経営者は、現実から目をそらしてはいけない」ということです。
「社員を大切にする」とは何だろう
例えば、ある社員の言動によって、周囲の社員が困っているとします。
経営者としては、
「長く勤めてくれているから」
「厳しく言ったら辞めてしまうかもしれない」
と考え、なかなか言うべきことを言えないことがあります。
私自身にも思い当たることがあります。
しかし、その一人に遠慮することで、真面目に働いている他の社員が苦しい思いをしているとしたら、それは本当に「社員を大切にしている」と言えるのでしょうか。
人を生かす経営とは、何でも受け入れることではないと思います。
相手の成長を願うからこそ、伝えるべきことを伝える。
そして、そのときの基準を経営者の好き嫌いではなく、経営理念に置く。
「私が気に入らないから」ではなく、
「私たちは、どんな会社をつくろうとしているのか」
に立ち返って話し合う。
そこに、人間尊重の経営があるのではないでしょうか。
人を大切にするために、会社を強くする
取引先との関係でも同じことがあります。
長年のお付き合いだからと、採算の合わない仕事を続ける。
値上げをお願いできず、会社が利益を出せなくなる。
人情としてはよく分かります。
しかし、その結果、社員の給与を上げられない。設備投資ができない。人を採用できない。そして会社そのものが弱くなる。
それでは、長い目で見て社員を守ることができません。
利益を出すことと、人を大切にすることは、反対のことではないと思います。
社員の雇用を守り、より良い労働環境をつくり、人を育て、地域から必要とされ続けるために、会社は利益を出し、強い経営体質をつくらなければなりません。
だから経営者には、ときには厳しい現実と向き合う責任があります。
問うべき相手は、まず自分
ただし、ここで気をつけなければならないことがあります。
「社員に厳しくする」ことが、現実を見るという意味ではありません。
同友会で学んでいると、むしろ最初に問われるのは経営者自身です。
社員が育たないとき、
「本人にやる気がない」
と言う前に、
仕事の意味を伝えているだろうか。
期待する役割を明確にしているだろうか。
意見を安心して言える関係をつくっているだろうか。
経営者自身が理念に沿った行動をしているだろうか。
と、自分自身に問いかける必要があります。
以前、職員から「所長が言っていることと、やっていることが違います」と指摘されたことがあります。
その時は耳の痛い言葉でした。
しかし今思えば、あの一言があったからこそ、自分の経営を振り返ることができました。
現実を見るとは、社員の問題点を探すことではありません。
経営者自身にとって都合の悪い現実からも、逃げないこと。
それもまた、経営者の責任なのだと思います。
人への温かさと、判断の冷静さ
『君主論』から私たちが学ぶとすれば、「人を疑え」ということではないと思います。
人間には強さも弱さもある。
社員にもありますし、私たち経営者にもあります。
だからこそ、人の可能性を信じながら、対話し、仕組みをつくり、理念を共有していく。
そして必要なときには、理念を基準に決断する。
人への温かさと、判断の冷静さ。
その両方を持つことが、「人を生かす経営」には必要なのではないでしょうか。
同友会は、経営者が本音で経営を語り合える場所です。
仲間の話を聞き、
「自分の会社ではどうだろう」
と考える。
そして自社に戻って実践する。
私自身も、社員に何かを求める前に、まず経営者として自分自身を問い続けたいと思います。
人を信じるからこそ、現実を見る。
現実を見るからこそ、より良い会社に変えていくことができる。
中央支部の皆さんと共に学びながら、そんな経営を一歩ずつ実践していきたいと思います。
いちご会計事務所
足立知弘