2月26日(木)に福岡県中小企業家同友会・中央支部合同ブロック例会「経営者読書会」が開催し、会場には学びと刺激を求める多くの経営者が集いました。
指定書籍『価格の掟』のもと、今回のテーマは、経営における最も強力なレバレッジである「プライシング(価格設定)」です。
失われた30年という長いデフレ期間を経て、今まさにインフレ局面へと移行する日本経済。
その中で、私たち中小企業の経営者は、どのように価格と向き合い、利益を確保し、持続可能な経営を実現すべきなのか。白熱した議論の様子を詳しくお届けします。
1. 「1%の値上げ」がもたらす驚異の利益改善効果
読書会の冒頭で示されたのは、多くの経営者が陥りがちな「コスト削減至上主義」への警鐘でした。
デフレ経済下では、変動費や固定費をいかに削るかが利益確保の王道とされてきました。しかし、現代の経営において最もインパクトがあるのは、実は「価格の1%の改善」です。
具体的な数値シミュレーションを通じて、参加者は衝撃を受けました。
「売価100円の商品において、コストを1%下げるよりも、価格を1%(1円)上げる方が、営業利益に与える影響度は圧倒的に大きい」 特にサービス業や士業のように固定費の比率が高い業種では、価格アップ分がダイレクトに利益へと直結します。価格は単なる「代金」ではなく、経営の最重要ドライバー(推進力)であることを再認識する時間となりました。

2. 「何を売っているのか」という本質の再定義
次に議論が深まったのは、価格の根拠となる「価値」についてです。
「コスト(原価)に利益を乗せるだけの値決め(コストベース)」から脱却し、「顧客が感じる価値に基づいた値決め(バリューベース)」へ。この転換の重要性が語られました。
ある塗装会社の事例では、自社の強みを「塗料を塗ること」ではなく「建物を長持ちさせ、メンテナンスコストを下げるノウハウを提供すること」だと定義し直すことで、コンサルティングとしての価値を確立したプロセスが紹介されました。 この視点の変化こそが、下請け脱却と適正価格の維持、さらには高収益化への鍵となります。私たち経営者は、日々「何を売っているのか」を問い続けなければなりません。
3. 価格交渉における「人間関係」と「心理的コスト」
不動産業や士業を営む参加者からは、現場での生々しい葛藤も共有されました。
「他社と比較され、ついつい値下げを口走ってしまう」「長年の付き合いがある顧客に、値上げを切り出すのは怖い」 これは多くの中小企業経営者が抱える共通の悩みです。
しかし、ある参加者からは、3年間にわたって誠実にノウハウを提供し続け、信頼関係を築いた結果、最終的に相見積もりなしで成約に至ったというエピソードが披露されました。
「人間関係の構築もコストの一部」という考え方です。 目先の利益を追うのではなく、顧客に徹底的に寄り添い、「この人から買いたい」という信頼(ブランド)を蓄積すること。その蓄積があれば、安易な値下げ要求に屈することなく、適正な価格を受け入れてもらえる強固な土台が作れるのです。

4. 競合分析とゲーム理論:鳥の目で市場を捉える
議論はさらに、マクロな視度へと広がりました。 「囚人のジレンマ」に代表されるゲーム理論を援用し、競合他社の動きをどう読むかという視点です。
「自分が値上げをしたら、競合にお客さんを取られてしまうのではないか」という恐怖は、自分だけが鏡を見ている状態です。しかし、実は競合他社も同じようにコスト増に苦しんでおり、値上げのタイミングを窺っているかもしれません。 「空中警戒管制機(AWACS)のように、情報をリンクさせ、市場全体を鳥の目で俯瞰すること。競合がどう動き、顧客が何に飢えているのか。その兆候を察知し、戦略的に時期をずらしたり、付加価値をパッケージ化したりする工夫が重要です」というアドバイスは、非常に示唆に富むものでした。
5. 足立支部長より〜「実践知(フロネシス)」こそが経営の本質〜
足立支部長よりアリストテレスの説く「実践知(フロネシス)」という概念が紹介されました。
本を読んで知識を得ることは「エピステーメー(理論的知識)」に過ぎません。
その知識を自社の現場に持ち帰り、泥臭く実践し、失敗し、そこから得た教訓が自分の血肉となって初めて、経営を導く「智慧」となります。
「吉田松陰も言った通り、知識太りは良くない。学んだら即、実践。何度も読み返し、何度も現場で試す。この繰り返しが経営者を成長させる」 今回の読書会は、単なる知識の習得にとどまらず、明日から自社の価格設定をどう変えるか、どう顧客と向き合うかという、強い決意を促す場となりました。

6. 響き合う学び:参加者の感想より
最後には、参加された経営者の皆様から、それぞれの業種・立場に基づいた深い気づきが共有されました。
- 「これまで他社と比較されると、反射的に手数料を安くしてしまっていました。しかし、3年間信頼を積み重ねた末にご成約いただいたお客様との経験を思い出し、人間関係構築という目に見えないコストも価格に含まれるべきだと痛感しました。」
- 「自社のデータ分析はもちろんですが、何より本日の学びを通じて、価格改定に悩む顧問先の経営者に対して、明日から自信を持って値上げの意味や妥当性を伝え、背中を押してあげられる『根拠』を得ることができたと感じています。」
- 「価格を上げられないのは、自分の仕事に対する自信のなさや、どこかで『安ければ少しの不手際も許されるのではないか』という甘えがあったからかもしれません。プロとして、自分の知識と経験に見合った対価をいただく覚悟が必要だと気づかされました。」
- 「値下げは悪、という言葉が刺さりました。特に薄利多売の業界では、値上げに対する心理的障壁は非常に高いですが、一度に大きく上げるのではなく、時代の変化に合わせた『値上げのリズム』を掴む工夫を検討してみたいと思います。」
デフレの慣習を脱ぎ捨て、自社の「果実(利益)」を守り、次なる成長への投資を可能にするために。中央支部の経営者たちは、これからも学びと実践を止めることはありません。
【開催概要】
イベント名: 福岡県中小企業家同友会 合同ブロック例会『 経営者読書会 』
次回開催予定: 2026年3月26日(木)
お申し込み:edoyuよりお申し込みください。