
会員の皆様は日々の経営に奮闘されていることと存じます。
目まぐるしく変化する社会情勢の中で、「自社をどう守るか」という問いは、私たち経営者にとって永遠の課題です。しかし、その答えは自社の中だけではなく、実は「地域」や「仲間」との関わりの中にこそ隠されているのではないでしょうか。
今回は、今や日本を代表する人気温泉地となった熊本県・黒川温泉の復活劇から、私たちが学ぶべき経営の原点について考えてみたいと思います。
「自社のエゴ」を抜き去る勇気
かつての黒川温泉は、大型団体客をターゲットにする周辺の有名温泉地の影で、「何もない、ひなびた場所」として廃業の危機にさえ直面していました。この窮地を救ったのは、2代目・3代目の若手経営者たちによる、ある「決断」でした。
1986年当時、温泉街には自社の名前をアピールしようと、色も形もバラバラな派手な看板が約200本も乱立していたといいます。彼らはまず、この200本の看板をすべて抜き去ることから始めました。
「自分の宿さえ目立てばいい」という個別最適の思考を捨て、「街全体の景観が美しくなければ、お客様は来てくれない」という全体最適の思考へ、命がけで舵を切ったのです。
一つの「チーム」として街を創る
彼らは旅館の垣根を越え、役割分担をして街づくりに挑みました。「看板班」が景観を整え、「環境班」が2万本の雑木を植えて里山の風景を再生し、「企画広報班」が宿の垣根を越えてお風呂を楽しめる「入湯手形」を発行しました。
「一軒だけ儲かろうとしても、一軒も儲からない」
この覚悟こそが、かつての「弱み」を、今の「強み(静寂と情緒あふれる温泉街)」へと変える力となりました。
経営の本質は「地域と共に生きる」ことにある
私たちの経営も、この黒川温泉の姿と重なります。一社だけで荒波を乗り越えようとするのではなく、地域の仲間と知恵を出し合い、切磋琢磨する。この「横の繋がり」を太くすることこそが、結果として自社の存続と発展を支える、何よりも強固な基盤となります。
- 「よい会社・よい経営者」を目指す 自社の専門性を磨き、他にはない独自の魅力を追求し続けること。
- 「相互の研鑽」で高め合う 経営課題を隠さず共有し、互いの強みを活かして相乗効果を生み出すこと。
- 「よい経営環境」を自ら創る 地域全体を魅力的にすることで、人や仕事が集まる持続可能な土壌を整えること。
自社の成長を地域の発展に繋げ、地域の活力を自社の力に変えていく。これこそが、私たちが目指すべき「地域社会に必要とされる企業」のあり方ではないでしょうか。
結びに
黒川温泉が看板を抜き去ったように、私たちも一度、「自分さえ良ければ」という目先の境界線を外してみませんか。
一社で悩まず、例会という「共同の知恵の場」で語り合いましょう。誰か一人が勝つのではなく、この地域で商売をする全員で勝つ。そんな誇り高い経営を、これからも共に実践していきましょう。