【開催報告】合同ブロック例会 経営者読書会~『価格の掟』に学ぶ、顧客の「知覚価値」を最大化する価格戦略の本質~

12月25日(木)に福岡県中小企業家同友会・中央支部合同ブロック例会「経営者読書会」が開催されました。

今回の読書会では、プライシング(価格設定)の世界的な権威であるハーマン・サイモン氏著『価格の掟』を指定書籍とし、経営の最重要課題の一つである「値決め」について深く学び合いました。クリスマス当日という特別な日にもかかわらず、会場には熱意あふれる経営者が集まり、自社の価格戦略を見直す貴重な時間となりました。

【価格という名の「経営の鏡」に向き合う】

例会の冒頭では、本書の核となるメッセージである「価格とは価値の交換である」という点について議論が交わされました。多くの経営者が、日々の業務の中で「競合がこの値段だから」「コストがこれくらいかかったから」といった理由で価格を決めてしまいがちです。しかし、ハーマン・サイモン氏が説くのは、顧客がその製品やサービスに対して抱く「知覚価値」こそが価格の正体であるという真理です。

読書会の中では、特に士業やコンサルティング業を営む参加者から、無形のサービスにおける価格設定の難しさと面白さが語られました。例えば、弁護士や税理士の顧問料は、一見すると「作業時間」に対する対価のように思われがちですが、実際には「いつでも相談できるという安心感」という価値を提供しています。顧客は、具体的な作業が発生していない月であっても、その安心感に対して対価を支払っているのです。これは、いわば「経営のお守り」としての価値であり、この価値を顧客がどのように認識しているかを把握することこそが、適切な値決めの第一歩であると再確認されました。

【足立支部長より:価値をビジネスに昇華させる三要素】

議論が熱を帯びる中、足立支部長より価値をビジネスに昇華させるためのプロセスとして「創出」「伝達」「維持」の3つの要素が重要であると解説されました。

  1. 価値の創出(イノベーション)まずは、顧客が抱える課題を解決したり、新たな喜びを提供したりするための価値を生み出す段階です。読書会では、エアコンの販売を例に挙げた議論が展開されました。エアコンの価値は単に「空気を冷やす」ことだけではありません。その先にある「社員が快適に働けることで欠勤が減る」「生産性が向上する」といった、顧客のビジネスに貢献する二次的な効果こそが、真の価値創出であるという視点が示されました。
  2. 価値の伝達(コミュニケーション)どれほど素晴らしい価値を創出しても、それが顧客に正しく伝わらなければ、顧客にとっては存在しないのと同じです。ここで重要になるのが、ブランディングやマーケティングです。ある参加者は、自身の経験として、妻が購入したブランドバッグのエピソードを披露しました。なぜ小さな革の袋が数十万円もするのか。それは、ブランドが長年築き上げてきた物語や、SNS等を通じた巧みな伝達によって、顧客の中に「それだけの価値がある」という確信が生まれているからです。価格そのものが価値を伝えるメッセージになることもあれば、ウェブサイトや接客の質が価値を裏付けることもあります。
  3. 価値の維持一度認められた価値を維持し続けることも、経営者の重要な責務です。競合他社の出現や市場環境の変化によって、自社の価値は相対的に低下するリスクを常に孕んでいます。アフターフォローを徹底し、顧客との信頼関係を継続的にメンテナンスすることで、価格を維持し、安易な値下げ競争に巻き込まれない体制を築く必要があります。

【事例から学ぶ、価格戦略の光と影】

今回の読書会では、多くの具体的な事例が共有されました。その一つが、飲食店における「ボトルキープ」のサイクルです。ある定食屋では、3ヶ月周期で売上が変動する要因を分析したところ、ボトルキープの期間が影響していることが判明しました。「ボトルがあるから飲みに行こう」という動機付けが顧客を店舗に引き寄せ、そのサイクルが切れるタイミングで適切なキャンペーンを打つことで、安定した集客とプライシングを実現した事例は、参加者に大きな気づきを与えました。

一方で、失敗事例としての共有も非常に深い学びとなりました。ある老舗うどん店が、店舗を綺麗に改装したことで逆に客足が遠のいてしまったというエピソードです。新しくなった店構えが、これまでの「気軽に入れる町のうどん屋」という価値の伝達を阻害し、顧客が抱いていた知覚価値とミスマッチを起こしてしまったのです。見せ方やデザイン一つひとつが、顧客への価値伝達においていかに繊細なバランスの上に成り立っているかを痛感させられる内容でした。

【値決めは経営者の「勇気」と「判断」】

読書会の締めくくりには、参加者全員が自社の値決めに対する決意を新たにしました。価格とは、単に利益を確保するための数字ではありません。それは、自社のサービスが社会に対して提供している価値を、経営者がどのように評価しているかの「判断」そのものです。

コストから積み上げる「コストアプローチ」から、顧客が受け取る利益から逆算する「マーケットイン」への転換。それは、言うは易く行うは難しですが、経営者が自社の価値を信じ、それを堂々と顧客に提案する「勇気」が必要不可欠です。作業ではなく、自らの「判断」や「スピード」に価値があるのだと自覚すること。そして、その価値を共有できる良質な顧客(ギバー)と共に歩むこと。それが、インフレが進む現代社会において、中小企業が生き残り、成長し続けるための唯一の道であると確信できる合同ブロック例会となりました。
2025年の最後を飾るにふさわしい、非常に密度の高い2時間でした。今回の学びを2026年の自社経営にどのように反映させていくか、参加者たちの表情には、確かな手応えと新たな課題への挑戦心が溢れていました。

【開催概要】
イベント名: 福岡県中小企業家同友会 合同ブロック例会『 経営者読書会 』
次回開催予定: 2025年1月29日(木)
お申し込み:edoyuよりお申し込みください。

2025年12月28日

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です