人を、企業を、地域を“つなげる”

~お客様から「ありがとう」をいただく会社に~

株式会社 井尻ガス 代表取締役
北村 陽一郎氏 【東支部】

2代目社長に就任した北村陽一郎さんは、同友会で学びを深め、『人を生かす経営』の実践に日々挑んでいくのでした。

創業の経緯
取材班は、福岡市南区にある㈱井尻ガスの北村陽一郎さんをお伺いしました。ガス事業をメインにして、水回りのリフォームや最近では水道直結ウォーターサーバーのレンタルも展開しています。まず、同社の創業時についてお聞きしました。
高度経済成長期(一般に1955~73年頃といわれる)の後半、日本でもモータリゼーション(自動車の大衆化)が進みました。北村さんの父親・雅彦さんは福岡市のガソリンスタンドで忙しく働いていましたが、その中で日常生活に不可欠な『ガス』に関心を持っていました。勤めていたスタンドでは、プロパンガス部門を分離する話が出て、雅彦さんはすぐさま手をあげ販売権を取得します。福岡市南区井尻六ツ角の一角(現在ではマンションが建っている)にあるスタンドを間借りして『井尻プロパンガス販売所』は創業しました。1970年4月のことです。数十軒からスタートして、コツコツと実績を積み重ねていきました。

北村さんの生い立ち
北村陽一郎さんは1967年に生まれます。「いま思うと父の作戦に乗せられたと思うのですが……」と苦笑いでエピソードを話してくれました。小さい頃から、軽トラックの助手席に乗せられ、お客様を一緒に回りました。「あら~、次のガス屋さんだねぇ」と言われて、よくお菓子をもらったそうです。子ども心にもお客さんのところに行くとお菓子がもらえるんだと思ったそうです。父親の背中を見て育ち、北村さんが継ぐことが衆目の一致するところでした。福岡大学に進み、就職活動の時期はまさにバブル絶頂期です。北村さんも一般企業の誘惑に心迷います。しかし父親の強い勧めにより、出光系の卸会社に就職しました。『2年間の丁稚奉公』だったのですが、配属された部署が、グループ企業の多角化戦略を担当しており、ガスにとらわれない様々な分野の経験を積むことができました。「現在の仕事にもその経験が生きています」と北村さんは語ります。

後継者として入社、そして同友会入会
1992年に後継者として入社します。当時の社員は5名で、配達・検針・営業・現場作業と様々な仕事を覚えていきました。
2007年、40歳の時に2代目社長に就任します。11年には中学の同級生、井上明さん(富士食品㈱・福岡同友会副代表理事)の勧めで同友会に入会します。入会後はすぐに役職に就き活動に参加します。ブロック長を務めるのを機にあすなろ塾・経営指針作成セミナーを受講します。そこで作った経営理念は次の通りです。

<目的理念>
 我社はガスの炎でお客様の豊かな生活に貢献します
<行動理念>
一. 私達は快適な暮らしのパートナーとしてお客様より「ありがとう」を頂ける行動を目指します
一. 私達はプロの技術をもって安全安心、温もりのある生活空間を提案します
一. 私達はお客様・社員・会社がともに成長し喜びあえる会社づくりを目指し、永遠の存続を実現します

当時高校生の娘さんが書道に従事しており、筆を執ってくれました。「よき理解者です」。額に入れられた理念は社内に掲示され、温かくそして厳しく見守っています。
「仕事に関しては、私は父のやり方しか知りませんでした。いわゆるトップダウンです。しかし同友会に入り、様々な経営者の方の考えに触れることができました。特に『人を生かす経営』の考え方(経営指針書を作成し実践する。社員をパートナーとみなす。そして経営の責任は経営者にある)には心を動かされました」。社員の声にも真摯に耳を傾け『人を生かす経営』の実践に努めるようにしました。

つなげる
自分が経営者となり、何ができるかを考えてみました。そこで浮かんだキーワードは『つなげる』です。
ガス業界は、いわゆる紳士協定が存在し業者同士の販売競争は少ない業態です(同社も(一社)福岡LPガス協会の会員です)。そして、かつてガス屋さんはお客様の信頼を得てお勝手口から出入りでき、『世界一の営業マン』と言われました。最近では、配送はメーカーに委託、検針は携帯による遠隔操作のDX化、そして口座引落しと様変わりしました。
北村さんは今こそお客様とのつながりを大事にし、ガスや水回りなど、お困りごとの相談に気軽に乗れるようにしています。「リフォーム工事は普段からのお付き合いから生まれてきますね。そこでプロから要望以上の快適な暮らしの提案をしています。価格競争にまきこまれることなく『ありがとう』と言われると最高にうれしいです」と北村さんは目を細めます。
地元の地主、オーナーともつながりを大切にしています。新築集合物件の情報があれば建設会社、金融業者などとの間に入り話をまとめる一助になります。その展開が地域密着に広がっていきます。

オール電化について
オール電化の『安全神話』が浸透しています。高齢者世帯をオール電化にすれば子ども世代は安心する傾向があります。ガスで一番懸念されるのは『袖引火』です。確かにIHヒーターにティッシュペーパーを近づけても引火しません。しかし専用鍋が接することで熱伝導するので、いわゆる鍋振りはできません。ガス器具のセンサーの充実や、ガス漏れ警報器のマイクロコンピューターの設置で安全を担保しています。昨今の災害では、LPガスが災害に強いと注目を集めています。
「お客様のリフォームの提案には、熱源に固執し過ぎず、その方のライフスタイルをよくお聞きして寄り添った形で最適の提案をしています」と北村さんは話します。

同友会での学び
東支部の経営実践塾では『ブランディング』の講座がありました。自社のビジョンを基に、ミッション・テリトリー・立場・活動や製品の支え・存在意義・価値・ブランドの理想の顧客・ブランドのスタイルと言語など、自社の見直しを図りました。その一環としてロゴマークの作成を林田選さん(クリエイティブプロダクション㈱彩)にお願いしました。赤は燃えるような仕事に対する情熱、緑は永遠の命、健康、エコロジー、黄色は希望の光を表しています。
コロナ禍でお客様を回っていた時、ガロンボトル(12㍑のボトル)が玄関先に不衛生に置配されているのを見た時に、非接触で安心安全な方法はないかと考えました。同友会仲間から水道直結型ウォーターサーバーを紹介してもらい、その企画で経営革新計画の認証を受けました。
また例会で『事業継承』をテーマに、支部会員3名の報告がありました。一人は3人の娘さんがいてその中で継承を考えている。一人は創業家ではなく社員から社長になったのですが創業家に改めて継いでもらう。もう一人は、M&Aで継承するという報告でした。グループ討議では、一番大切なのは「社長の気持ちを伝えることだ」という話に共感を得て、その年末に帰省した息子に、父親の思いを伝えました。現在は東京で動画クリエーターをしているそうです。果たしてどうなるか、そっと見守りたいところです。
現在、支部ではブロック長顧問という立場で8つあるブロック長の相談に乗っています。

暮らしの輪を創る
北村さんは趣味が多く、ダンス・山登り・料理といろいろな趣味をもっています。「いま一番の推しは、奥さんと共通の趣味を持とうと始めた『バラ栽培』です。土壌づくりから始まり、ほんとに手間がかかります。何か経営と通ずるものがありますね」と語ります。
取材の最後に北村さんの考える自立型企業についてお伺いしました。
「お客様と、企業と、地域とつながっていきワンストップでそれぞれのお悩みを解決することができていく。そして『ありがとう』と言ってもらえる会社ではないでしょうか。私たちの目指す『暮らしの輪を創る』につながっていくと思います」。
取材協力ありがとうございます。

株式会社 井尻ガス
創  業 1970年
住  所 福岡市南区柳瀬1-8-1
電  話 092-591-3056
従業員数 9名
事業概要 LPガス供給、給湯器等器具取付工事、
システムキッチン、ユニットバスリフォーム工事
https://www.ijirigas.com

取材/広報部 
文章/菅原 弘(東支部)
写真/富谷正弘(玄海支部)

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