売上第一主義から理念経営への緩やかなシフト

〜同友会で豊かな人脈を構築〜

有限会社ワールド・テン 代表取締役社長 山﨑 龍也 氏(福友和支部)
同友会の学びを自社に落とし込む2代目社長の報告です。

福岡県に3000件
今回の取材は、福岡市東区土井の㈲ワールド・テンの山﨑龍也さんを訪ねました。「歯科医療器具・機器・材料の販売及び開業のコンサルタントをしています。創業1985年です。日本に歯科医療が入ってきたのは120年前ですから、まだまだ40年目です」と苦笑します。許認可が必要で参入しにくい業種と言われます。それだけに旧態依然とした体質が残ります。同業者でつくる福岡県歯科用品商協同組合は23社が加盟しており現在山﨑さんが理事長を務めます。同様に九州では57社、全国では440社が加盟しています(それぞれ山﨑さんが常務理事・理事を務めています)。
そもそも歯科医院は、福岡県では3000件、全国で7万件存在します。「開業支援をする場合は、一日の見込める来院数が一定基準をクリアするかどうかを見極めます」と山﨑さんは語ります。

父親が創業
山﨑さんの父親・博文さんは久留米市でタクシーの仕事に従事していました。義兄が歯科用品商の業界にいて誘われたといいます。しかし勤めたA社は同族で、仕事に限界を感じて独立を決意し、㈲山﨑デンタルを設立させるのでした。1985年のことです。
話はさかのぼり、龍也さんは長男として生まれます。専門学校を卒業しコンピューター系の企業に内定が決まっていましたが、父親が強引に歯科用品のメーカー及び商社のM社(京都)の就職を決めてきました。「いわば丁稚奉公です。3年間の予定でしたが、父の会社で退職者が出たので急に帰って来いといわれました」。1994年に入社するのでした。
翌95年、父親が以前勤めていたA社が倒産し、社員を引き取り営業が合計10人になりました。『世界に羽ばたく10人』の思いを込めて社名を㈲ワールド・テンに変更しました。

スゴ腕の先代の営業戦略
父親は夜討ち朝駆け、気合と根性で売上げを築いていき、社員にも促していました。
一気に営業マンが増えたので人件費対策として、歩合制(フルコミッション)としました。タクシー時代の経験が活かされています。
開業の意志のあるお客様に、土地・資金繰りの相談を受けます。不動産や金融機関と連携して、歯科医院を建てて貸し出します。当然、医療機器(大きいものではレントゲンから診察台など)、医療材料(治療に必要なもの)は同社からの購入になります。営業はお客様をルーティンとして回っていき、在庫補充していく業務となります。

山﨑さんは父親から、社長になる条件として№1の売上げをあげることを課せられていました。課題をクリアし、2009年2代目社長に就任しました。

同友会との出会い
社長就任の2年前、長年の友人の廣田明彦さん(㈱エフタイムズ)から同友会を勧められ入会します。社長になったことを機にあすなろ塾・経営指針作成セミナーを受講します。売上第一主義で突っ走っていた自分が経営者となり、改めて自社を見直すことができました。策定した経営理念は次の通りです。

私たちは歯科医療のすべてを全力でサポートします。
1.歯科医院をトータルサポート
2.地域の歯科医療に貢献
3.歯科医療人の夢の実現へ

さてセミナーを終えて、月曜日の会社で会長との話です。会長は通帳をおさえていました。「週末、金を使ってどこに行っていた」と問われ、作成した経営指針書を見せました。「有限会社にこんなもの、いらん!」と、あろうことがゴミ箱に捨てられてしまいました。「さすがにショックでしたね」と振り返ります。
その後も同友会の会費が引き落とされるたびに「なんやこれ?」と質問されるなど、たびたび会長とぶつかるのでした。
山﨑さんは、歯科医療は地域に根差しており、地域貢献につながると確信しています。本当のお客様は患者様と考え、よりよい機器や材料の提案がお客様(患者様)のためになり、またそれが歯科医のためになり、地域貢献につながると考えています。
経営指針書は福友支部での『末政塾』でさらに深堀していくのでした。

粛々と学びを続ける
山﨑さんの同友会への思いは強くなりました。
「粛々と通い、学んでいきました」。入会してすぐに役職を引き受け支部長まで務めることになりました。そして人脈を拡げていきました。
ある日、法的な案件が持ち上がり会長が「法律に詳しい人知らんか」と聞いてきました。同友会の人脈から即座に対応しました。これには会長も驚き、それ以来同友会については口出ししないようになったそうです。
コンサルタントの内容も従来の物件・資金繰りに加えて、建築・WEB(PR活動としてのHP)・デザイン・プロモーション・経営戦略・スタッフ教育など充実させていきました。「これも同友会の学びや人脈で得たことです」。

急激な変化は社員がアレルギーを起こす
かつてアメリカに短期留学したときに、ある学術論文に出合いました。「歩合制は行き詰る」という内容のものです。ある程度売上が見込める環境では、歩合制に安住してしまい冒険しなくなり行き詰ってしまうという趣旨でした。「これは腑に落ちましたね」。営業が日頃からの売上げが確保できており、それに甘んじてしまいチャレンジ精神に欠けると感じていました。
そこで社に戻ってから体制改善に着手します。「急激な変化は社員がアレルギーを起こします」。そこで給与体系を歩合制から、前年実績に基づいた年俸制に変えました。「半年ごとに見直します。売上・利益を考える姿勢が生まれてきました。また経理も楽になりました」。
また、新卒採用を試みました。しかし実際に社内環境が整っていないことに気づきます。そこで安藤さゆりさん(㈱クロスアビリティ)に依頼して職業訓練者を一人採用しました。「私が初めて採用した社員です。彼は固定給+インセンティブ制にしました」。また福友支部での指針発表例会にも連れていきました。「社長の考えを理解できました」と語ります。
社内には徐々に経営指針書が浸透していきました。営業活動が単なる御用聞きに終わらず、お客様の声に真摯に向き合うようになりました。一例として、簡単な機械修理をできるようにして対応しています。「ウチでは営業車に工具箱を備えて即対応します。大手は修理班が改めて出向くのでタイムラグが生まれてしまいます。お客様に喜ばれることが、売上・利益になっていきます」。
会長は「とにかく人と会って来い!」と言います。今どきの営業はLINEで先生の都合で情報のやり取りができます。しかし、こういう時代だからこそ、会長の教えを守り対面も重視しています。
片山孝子さん((同)カラービジネスラボ)の協力で、社内でニュースレターを作成し請求書に同封しています。また営業ツールとしても活用しています。
「『困った時には、経営理念に立ち返ろう』と社員が言ってくれるようになりました」と山﨑さんは目を細めます。

コロナ禍の影響・支部と組合
コロナ禍で、歯科業界は飛沫が飛ぶと思われていますが、「実は歯科医でクラスターは発生していません。もともと院内感染には厳格な業界です」。
コロナ禍と言えば、山﨑さんはコロナ禍の真っただ中で支部長を拝命しました。福友支部は前任の支部長・森慎吾さん(㈱アール・ツーエス)が、連続入会記録全国一(当時連続252カ月)を継続しながら支部を分割し、福友和支部・山﨑さんと、福友愛支部・入江恵美さん(㈱オー・エー企画)にバトンタッチしました。
分割したことやコロナに見舞われて退会者が続出するのではないかと懸念されました。入江さんと毎日のように連携を取り、増強プロジェクトの協力も得て、会員はさらに増え続け次の支部長・高尾英正さん(㈱ライズ)に引き継ぎました。
また支部長を受けると同時に組合の理事長も引き受けていたのでした。
「実は同友会の学びを組合に落とし込んでいるんですよ。同友会では会全体がよくなるように活動しますが、業界の組合でも同様によくなるように話し合っています」。

人間力を高める会社
営業を始め人手不足はどの業界でも言えることです。営業のDX化は組合でも取り組んでいます。「ウチとしても営業体制をさらに盤石にするための量的拡大と質的向上が課題です」。
取材の最後に山﨑さんの考える自立型企業についてお伺いしました。
「社員それぞれが自分の強みを活かして、お客様に応える会社。マネジメントするのは経営理念です。そうやって人間力を高めていく会社だと思います。支部長を終えたのを機に改めて経営指針書を見直そうと思っています」と笑顔で締めていただきました。

取材協力ありがとうございました。

<有限会社ワールド・テン>
創業:1985年2月
住所:福岡市東区土井3-16-15
電話:092-691-4886
従業員数:10名
事業概要:歯科医療器具、機器等の販売・歯科医院開業経営相談コンサルタント。
HP-URL:http://www.world-ten.com

取材/広報部
文章/菅原弘(東支部)
写真/富谷正弘(玄海支部)

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