『経営指針書』で会社創立がスムーズに

~ビジョンも明確に~

やわらか製作所株式会社
代表取締役 内野 克彦 氏(りょうちく支部)

やわらか製作所株式会社 代表取締役 内野 克彦 氏(りょうちく支部)
やわらか製作所株式会社 代表取締役 内野 克彦 氏(りょうちく支部)

会社創立に先立って『経営指針書』を作成した内野克彦さん。
同友会の学びを経営に活かしていくのでした。

発泡ウレタンって何?

 今回の取材は大分県日田市にある、やわらか製作所㈱の工場に伺いました。会社に着くと内野克彦さんが笑みをたたえて迎えてくれました。

 「ウレタン加工を中心にポリエチレンや発泡ゴム・発泡スチロールの加工をしています。マットレスや枕・クッションは縫製から中身まで、ワンストップの『Made in Japan』 です」と話してくれました。さらにはフェリーの中の寝具や野球場のフェンス、車の部品を輸送する際の養生材、小さなものではイチゴや明太子などパックの底に敷かれているものなどオン・デマンドの対応をしています。

 工場内には、直径4メートルはあろうかという大きなレコード盤のような機械があり、ターンテーブルの上に置かれたウレタンが回転して、待ち構えるカッターを通るときれいに切断されていきました。厚さは5ミリから加工できるそうです。隣では反物(巻物)から伸びていくポリエチレンが切断されていき、野球場のフェンス部品になっていきました。

 発泡ウレタンとは、いわゆる『スポンジ』を指しますが、ポリウレタン樹脂に発泡剤を混ぜたもので、硬質発泡ウレタンもあります。

 断熱性に優れ、劣化しにくく、意匠性が高いなど様々な特長があります。医療器具(磁気の入ったマットレス)を作るという衛生的な作業場には、1メートル×1メートル×2メートルの大きな食パンのような原料のウレタン材(約60kg)がありました。

人よりもサイズの大きなウレタン材
人よりもサイズの大きなウレタン材

生い立ち

 内野さんは浮羽郡田主丸町(現・久留米市)に生まれます。専門学校を卒業して福岡市内の会社に就職し、サービス業や営業の畑を歩みます。その後、出身高校のあった日田市に職を求め、自動車部品製造・ウレタン加工を営む中山化成(有)に入社します。平成16(2004)年、30歳の時です。同社では営業を担当しました。

 同社の谷口知幸社長は大分同友会の会員で、「経営者の知り合いができた方がいいだろう」と、大分同友会の日田支部に入会します。しかし、当時は内野さん自身が経営者ではなかったこともあり、なかなか馴染めなかったと振り返ります。ほとんど参加しない内野さんを見て谷口社長は同友会に籍を置き続けるか質します。内野さんは、大分同友会を退会して福岡同友会に入会し、自宅のあるりょうちく支部に所属することにしました。そして平成25(2013)年、あすなろ塾と経営指針作成セミナーに参加し、経営指針書の作成の意義を学びました。翌年、ウレタン部の責任者となりました。

ターニングポイント

 平成27(2015)年、同社はウレタン部を閉鎖するという大きな決断をします。内野さんには役員として残るよう打診がありましたが、ウレタン事業に対する愛着やお世話になったお客様のことを思い、熟慮を重ね「別会社にしてやらせてください」と談判します。さらに当時事業部にいた3名の社員は別会社へ移ってもらい、工場も使わせていただきたいとお願いしました。その要求はほぼ認められました。「谷口社長には感謝しかありません」

 内野さんは、金融機関に融資の相談に行きます。会社がないと融資できないとのことから、翌年に『やわらか製作所(株)』を設立しました。会社所在地は久留米市、工場は日田市(中山化成本社工場内)としました。

 社名には、ひらがな表記でインパクトがあり扱う商材がイメージできること、商材だけでなく営業姿勢も柔軟に対応できることが込められています。

改めて同友会活動に参加

 同友会活動も本格的に再開し、部門責任者と経営者では、考え方が全然違うということを実感しました。それは役員研修大学に参加した時のことでした。拓新産業㈱の藤河次宏さん(南支部所属)の経営体験報告に強い印象を受けたのです。社員が生き生き働くようにと現在実行している「ノー残業、ノー休日出勤」はここで学びました。

 経営指針作成セミナーにも改めて参加しました。策定した経営理念は次の通りです。

『心地よさの追求』

 会社はお客様のお役に立つために存在します。私たちは心地よさの提供で、お客様に必要とされる会社になります。心地よさの追求は会社と社員のためにもあります。会社の発展を考え社員の物心両面の充実を図ります。

ウレタン材がターンテーブルに置かれ回転して切断される
ウレタン材がターンテーブルに置かれ回転して切断される

実質的な営業開始

 平成29(2017)年より実質的な営業が開始しました。お客様をそのまま引き継いだことで順調なスタートとなり、2期連続での黒字を計上します。しかし翌年赤字となりました。内野さんは「読み間違えました」と言います。その年、大手自動車会社がモデルチェンジを行わなかったため、それに伴う養生用の緩衝材の受注が少なかったこと、暖冬になり断熱性を求める商品(DIY向けの住宅の隙間を埋める隙間テープなど)の受注が少なかったことが理由です。「下請体質や季節依存型では安定した売上が確保できないと反省しきりです」。そして迎えたコロナ禍で内野さんは戦略を練り直します。

安定した売上のための戦略

 下請の比率を下げるために直接取引の交渉を始めました。

 内野さんは下請をすべて否定しているわけではありません。安定した売上の確保はもちろんのこと、豊富な情報源、求められる技術力、『カイゼン』にみられる品質管理、厳しい時間管理など、仕事をしていく上での多くの学びがあります。これらを踏まえて自立した『モノづくり』を目指していきます。

 従来はBtoBの取引がほとんどでした。そこでHPを活用してBtoCの商材を開発しました。一例として、水耕栽培用ウレタンがあります。コロナ禍となって自宅で過ごす時間が増え、レタスやカイワレ大根などを栽培する人が増えています。調べてみると、ネット付きの台所用スポンジを自分で細工していることがわかりました。そこでウレタンに切り目を入れて『お試しセット』としてレタスの種と一緒にしてHPで販売してみました。「これはBtoCの売上確保というよりも、初めの一歩として話題づくり、自社の認知度を上げる作戦です。自分でもレタス栽培して食べてみました。おいしいですよ」と笑顔を見せる内野さんでした。ちなみにHPのデザインは同じりょうちく支部の大熊充さん(うきはの宝(株))にお願いしました。

切れ目を入れたウレタン
切れ目を入れたウレタン

オリジナル製品をつくるメーカーを目指す

 「すべて『経営指針書』の作成と実践のおかげです」と内野さんは言います。「創業の際、金融機関からは『ここまで(経営指針書が)できていて会社を始める人はいませんよ』とお褒めの言葉をいただきました。社員たちとは、付き合いは長いものの、やはり成文化した理念があることで一丸となっています。そしてビジョンにおいては、メーカーとしてオリジナル製品を企画・製作・販売をすることが明確になりました」

 取材の最後に内野さんが考える自立型企業についてお伺いしました。

「外的環境、例えば景気に左右されない強い会社でしょうか。わが社で自立と言えば工場をお借りしていますから、そこからまず一歩踏み出していきます。そして目指すはオリジナル製品を持つメーカーです。そのためにも人材を増やさなければなりません。今後、新卒採用も視野に入れていきたいと思います」と力強く締めていただきました。

取材協力ありがとうございます。

やわらか製作所株式会社

創業 2016年7月
住所 <本社>久留米市田主丸町船越1170-5
<工場>大分県日田市大字川下133-6(中山化成本社工場内)
電話0973-29-8787
従業員数正規3名
URLhttp://yawaraka-seisakusyo.com
事業概要 ウレタン、ポリエチレン加工、マットレス・枕等は縫製から中身まで一貫生産できます。

取  材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写  真 富谷正弘(玄海支部)

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