「これまでのやり方では通用しない」
——最近、経営者の皆さまからこの言葉を聞くことが増えました。

AIの登場、人口減少、インフレ、価値観の多様化。かつての経験や成功モデルが通用しなくなり、まさに“変化の時代”を私たちは生きています。こうした時代に求められるのは、「経営者自身の学び方の改革」ではないかと感じています。
学び方が“経営力”を決める時代
中小企業の経営は、環境変化に最も影響を受けやすい領域です。資金、人材、時間、すべてが限られている中で、変化をどう読み取り、どう動くか。
結局、その判断力は「経営者の学び方」にかかっています。
かつての学びは、“経験の積み重ね”でした。現場で失敗し、取引先から叱られ、銀行に頭を下げて身に染みる——そうした経験の連続が、経営者を鍛えてきました。
しかし今の時代、学びは“情報の選択力”でもあります。SNSやYouTube、ChatGPTなどのAIツール、オンラインセミナー、無数の経営書——情報は溢れていますが、どれが自分の経営に活かせられるのか、またそれが正しいのかを判断する「見極め力」が問われる時代です。
「何を学ぶか」よりも、「何を捨てるか」「何を信じるか」をも考えるーこの判断の部分も、経営者の力量を決める時代になったと思います。
AI時代の“知”のアップデート
私自身もChatGPTなどの生成AIを日々業務に使っています。税務調査の論点整理、顧問先への提案文書の下書き、会計制度の比較検討、税務的知識の検索など、以前よりも仕事のスピードが格段に上がりました。
ただし、AIを使うほどに実感するのは「人間の知恵の価値」です。
AIは過去のデータをもとに“正解らしきもの”を導きます。
しかし、経営には“正解がない問い”が多い。
「この社員をどう育てるか」「顧客とどう向き合うか」「どこまでリスクを取るか」——こうした判断は、AIにはできません。むしろAIが進化するほど、人間の感性・倫理・経験が問われるようになっていくのだと思います。
だからこそ、経営者の学びは「情報収集」ではなく、「自分の頭で考える訓練」に変える必要があるのです。
AIが答えを出す時代に、私たちは“問いを立てる力”を磨かねばなりません。
学びの再定義──「時間をつくる勇気」
多くの中小企業の社長に共通する悩みは、「学びたくても時間がない」ことです。
確かに、日々の売上、資金繰り、社員対応に追われていると、本を開く余裕などありません。
しかし、逆説的ですが——「学びの時間を持てる経営者ほど、経営が安定している」という事実があります。
経営とは未来への意思決定の連続です。
学ぶことは、未来に備えること。
読書でも、異業種交流でも、セミナー参加でもいい。
新しい情報を受け取り、それを自社の経営に照らして考える時間こそが、経営者の“思考資産”を増やします。
宮崎駿監督は「学生時代に本を読まないのは勝手だけど、そのつけは全部自分が払う」と言いました。
経営者も同じです。学びを止めた瞬間、企業の成長も止まる。学びはコストではなく、未来への投資なのです。
経営者の「学びの姿勢」が組織をつくる
もう一つ、重要なことがあります。
それは、経営者の学び方が社員に影響を与えるということです。
社長が学び続ける姿勢を見せる会社は、社員も成長します。逆に、経営者が「学ばない」「変わらない」姿勢を見せると、組織全体が硬直していきます。
企業文化とは、経営者の“日常の背中”から生まれるものです。
「変化の時代」をどう生きるか。
その答えは、まず経営者自身が学び続けることにあります。
本を開くこと、対話すること、考え続けること。
それが、企業の未来を支える最大の“経営改革”なのかもしれません。