
○問屋依存から直販への戦略転換
株式会社イナバは、1960年4月に久留米市で創業された、軍手を中心とした手袋や靴下を製造する企業です。当時の久留米市には工場も多く、その作業時に使う軍手を製造・販売する会社として設立されました。当時は、同社以外にも軍手を製造する会社は多くありましたが、外国から安い軍手が入ってくるようになり、製造会社も減ってしまったり、製造はせずに輸入して販売する会社に変わってしまったりしました。そうした中でも、同社は現在も製造を続けており、九州で製造する会社はもう同社くらいではないか、といわれています。
設立当初は、糸屋から糸を買って軍手を作り、それを卸会社に販売していました。そしてホームセンターにも卸すようになりました。しかしそれでは、販売先が自分に都合の良い商品しか扱わず、自分たちが売りたい商品を扱ってはもらえません。価格面でも苦労します。そこで、約10年前に、販売方法の変更に取り組み、いまでは直販が8割を占めるまでになりました。
この直販戦略の核となっているのが、15年前に社長が始めたインターネット販売です。当初から自社サイトを立ち上げており、現在はAmazonや楽天といったECモールを主戦場としています。また自社サイトを長く運営している経験から、サイトの構築からSEO対策、広告運用などを自社で行っています。軍手というニッチとも言えるジャンルの特性を活かし、スピード感を持ってデジタルマーケティングを行うことも、同社の直販を支える重要な要素となっており、Amazonでは軍手販売で一位となったこともあります。このようにニッチな分野で、「オンリーワン」を追求し「ナンバーワン」の実績を獲得する同社の挑戦は、現代において中小企業がめざすべき経営戦略と言っていいでしょう。
○独自の開発力でオリジナル商品を開発
軍手は、何を持って軍手と言うかの決まりはないということでした。手袋は防寒対策であったり、ファッションであったり、色々な用途がありますが、その中でも作業のための手袋が軍手ということになります。
同社が製造する軍手は「ほとんどオリジナル」であり、「うちしか作ってない」ものが多いと話され。その中でも売れているオリジナル商品は子ども用軍手です。テレビで子どもが大人用のぶかぶかな軍手を使っているのを見て、「子どもの手に合う軍手がない」という事に気づき開発、約20年前に製品化されました。現在では同社の主力製品の一つとなっています。
この製品は、品質と使い勝手が徹底して追求されており、目が細かく芋掘りなどの際に砂が入りにくく、サイズも1cm刻みの細かさで、伸縮糸を編み込みフィット性も追求し、お子さんの小さな手をやさしく守ってくれます。色も白だけでなく赤や青などがあり、単色だけでなく複数の色を合わせることで、30種類くらいのカラーバリエーションがあります。Amazonでベストセラー1位になったこともあると聞いて納得しました。
また、企業ロゴなどの印刷を施すオーダーメイド対応も、小ロットで受け付けており、イベントや安全運動など多様な用途に対応することで、市場で独自の地位を築いています。
○「手を守り、人を護る」理念と未来への多角化展望
同社の経営理念には、「手を守り、人を護る」です。軍手製造業としての使命と、その製品を使う人々への想いが込められています。同社の新商品に、小国杉のキッチンミトンがあります。ミトンと言えば鍋を掴むだけの簡単な構造のものが多く、熱さは伝わらないが、つかみにくいという弱点がありました。これを5本指にすることで、掴みやすく、作業がしやすい製品となっており、福岡デザインアワード2024で金賞を受賞しました。このキッチンミトンは、経営理念に沿った新商品と言えるでしょう。
今後の展開として、さらなる直売比率の向上をめざしつつ、事業の多角化にも目を向けています。具体的には、プロダクトデザインやグラフィックデザイン、ネットマーケティングといった、これまで自社で培ってきたノウハウを活かした新規事業の立ち上げです。これは、自社の直販体制を支えてきた独自のデジタルノウハウを、軍手製造という分野を超えての展開です。また、地域企業や他社との連携も進めています。軍手というニッチな分野の独自性とノウハウを活かした新たな価値の創造です。従来の分野に限らず、積極的に、自社の経験を他業種に広げていく戦略は、今後の中小企業の成長モデルになるのではないでしょうか。

▶ 創業
1960年4月
▶ 会社所在地
久留米市北野町千代島313-4
▶ 電話番号
0942-78-5378
▶ 従業員数
15名(パート含む)
▶ 事業概要
軍手・その他ニット製品の製造と輸入軍手の販売。WEBサイト制作。
▶ ホームページ
https://www.gunte-kobo.com/