同友会理念

 企業に経営理念があるように同友会にも同友会運動の歴史と経験の蓄積の中で培われてきた同友会理念(注1)と呼ばれるものがあります。理念とは、「価値判断の基準となる根本的な考え方」の意味であり、会の目的、性格、基本となる考え方を総称するものです。

 第一には、「同友会の三つの目的」です。
 第二には、「自主・民主・連帯の精神」です。
 第三には、「国民や地域と共に歩む中小企業をめざす」ということです。

同友会の三つの目的

 1973年、中同協第5回定時総会(愛知)で、「同友会の理念について」というテーマで審議され、採択された文書に「同友会の生いたちと展望」(注2)があります。その中に、今、私たちが掲げている同友会の三つの目的が明記されました。それは、

  1. 同友会は、ひろく会員の経験と知識を交流して企業の自主的近代化と強靭な経営体質をつくることをめざします。
  2. 同友会は、中小企業家が自主的な努力によって、相互に資質を高め、知識を吸収し、これからの経営者に要求される総合的な能力を身につけることをめざします。
  3. 同友会は、他の中小企業団体とも提携して、中小企業をとりまく、社会・経済・政治的な環境を改善し、中小企業の経営を守り安定させ、日本経済の自主的・平和的な繁栄をめざします。

となっています。
 第一の目的は、「よい会社をめざす」ということです。よい会社とは、企業の理念が明確であり、顧客や取引先、地域社会からの信頼も厚く、社員が生きがいや使命感、誇りを持って働き、どんな環境変化に直面しても雇用を守り、永続して利益を出し続ける企業といえるでしょう。それは、同友会運動が生み出した「中小企業における労使関係の見解」(労使見解)(注3)にもとづき労使間の強い信頼関係で裏打ちされた人間尊重の経営をめざすことでもあります。こうした「どのような環境変化にも負けない強靭な体質の企業づくり」をめざして、会員が相互に切磋琢磨して学びあうことを提起しています。
 第二の目的は、「よい経営者になろう」ということです。会員一人ひとりが常に経営者として科学性、社会性、人間性にもとづく経営理念(注4)を確立し、その実践ができる経営者をめざし、自分自身に磨きをかけていく。そのために謙虚に学びあい、高まりあい、時代を切りひらく総合的な能力を身につけていこうと呼びかけています。
 第三の目的は、「よい経営環境をめざす」ということです。私たちは、主として個々の経営努力によって企業の未来を切りひらいていきますが、経営努力だけでは解決できない、時代の流れ、産業構造の変化、政治・経済のしくみから生じる困難な課題がたくさんあります。私たちは、日本経済の真の担い手としての誇りと自覚に立って、経営努力が公正にむくわれる経営環境を実現するために、会員が結束し、他の中小企業団体とも提携し、努力していくとしています。
 以上の三つの目的は、企業の健全な成長を願う経営者であれば、すべての人が賛同できるものです。
 ここで大切なことは、三つの目的はそれぞれが切り離されて独立したものではなく、相互に関連し、密接なつながりを持っているということです。「よい会社」にしていくためには、「よい経営者」になる努力は欠かせませんし、中小企業が繁栄する土壌=「よい経営環境」が必要です。また、同友会が「よい経営環境」づくりのための要望・提言を社会的にアピールしていく場合も、会の構成員が、「よい会社」「よい経営者」をめざす“良識ある経営者集団”としての社会的評価をえていることが大切です。会のすべての活動を三つの目的を実現していくという総合的な視点から常に考え実践していくことです。

自主・民主・連帯の精神

  1. 自主というのは二つの意味を持っています。一つは、同友会はほかのいかなるところからも干渉や支配をうけないということです。もう一つは、入会も退会もまた行事への参加についても会員経営者の自主性を大切にするということです。つまり、会の主体性を守るということと、会員の自由選択権を保障するということです。
  2. 民主にも二つの意味があります。一つは、会の運営を会員の要求や意見に基づいて行い、ボス支配がおこらないようにするということです。もう一つの意味は、民主的なものの見方や考え方を積極的に広めていく、とりわけ企業内で実践していこうということです。このことによって組織の自浄力は強化され、発展が保障されます。
  3. 連帯は、会員同士の腹を割った裸でのたすけあいと、あらゆる階層の人たちと手をとりあっていく、外へ向けての融合、協力、団結をすすめる意味とがあります。特に会内においては、経営者として全人格的完成をめざしての相互の高まりあいから生まれる深い信頼関係(高い次元でのあてにしあてにされる関係)が連帯の中身となります。

1)自主・民主・連帯の精神に基づく会運営が会の発展を支える
 現在、すべての都道府県に同友会が存在し、4万5千名を超える組織にまで成長できた要因としては、自主・民主・連帯の精神にもとづく会運営に徹してきたことがあげられます。私たちはこの精神を、次のような内容として理解し会運営にあたってきました。
 「自主」とは、二つの意味があります。一つは、同友会は他のいかなるところからも政治的、経済的な干渉や支配を受けないということです。もう一つは、行事への参加や企画、提案については会員の積極的な意志を尊重するということです。つまり、会の主体性を守るということと、会員の自発的参加を基本にするということです。
 「民主」にも、二つの意味があります。一つは、会の運営を会員の要求や意見に基づいて行い、一部の人による独善的なボス支配がおこらないようにするということです。もう一つは、民主的なものの見方や考え方を積極的に広めていく、とりわけ企業内で実践していこうということです。このことによって組織の自浄力は強化され、健全な発展が保障されます。
 「連帯」は、会内では会員同士が同じ目的の実現めざし力をあわせていこうということと、あらゆる階層の人たちと手をとりあっていくという外に向けての協力、団結を進める意味とがあります。特に、会内では会員相互の研さんを通じて全人格的成長を図り、深い信頼関係をベースに、高い次元での“あてにしあてにされる関係”が連帯の中身として理解されてきています。
 自主・民主・連帯の精神は、同友会運動の歴史の中で、その意味が吟味され練り上げられてきたものです。これは、同友会運動の基調というよりも、家族、企業、社会など、あらゆる組織、人間集団のあり方を示す普遍性をもっているといえます。

2)自主・民主・連帯の精神の実践は「人間尊重の経営」の源
 同友会は創立以来、「人間尊重の経営」をめざす活動を展開してきました。このことは、後でも述べますが、「中小企業における労使関係の見解」や、「21世紀型中小企業」(1993年発表、注5)の中にも貫かれています。
 「人間尊重の経営」の考え方の基本となるのも自主・民主・連帯の精神で、それは次のように考えることができます。
 「自主」とは、自立型企業をめざすこと。価格決定や技術力などで主導権を発揮でき、そのための独自性、先進性を持つ企業のことです。企業内では、社員の自主性、自発性を尊重し、自由な発言を保障して、個人の人間的で豊かな能力を引き出す社風を育てることです。
 「民主」とは、経営指針にもとづく全員参加型経営や自由闊達な意思疎通のできる社風をめざすことです。そのためには、民主的なルールを尊重し、平等な人間観のもとで、創造力を発揮する民主的な社内環境を整備し、社員の能力の開花をめざします。
 「連帯」とは、企業間や産学官金のネットワークに参加、組織、運営する連携能力をもつ企業づくりの課題です。また、企業内での連帯とは、「労使見解」の創造的応用と考え、労使が共に学びあい、育ちあい、高次元での団結、あてにしあてにされる関係をつくり出すこと。社員にも社外での自主的活動(PTA、ボランティアなど)への参加を促し、このような関係を広げることです。
 以上のように自主・民・連帯の考え方に基づく企業づくりは、人間らしく生き育つ「人間尊重の経営」をめざすことと言えます。

 今日の社会において、この「人間尊重の経営」を守り、広げる視点で見れば、さらに大きな課題が広がっていきます。すべての生命の母体を守る地球環境保全の課題や人類間のあらゆる紛争を武力によらず平和的解決をめざすことは人類永遠の存続と繁栄にとって不可欠の課題であることは明らかです。さらには、高齢化社会への対応や貧困の解消、極端な格差社会の是正など21世紀は人間の良心と英知を結集して解決しなければならない課題が山積しています。自主・民主・連帯の理念は、人間が人間らしく生きられる社会、すなわち、誰もが持っている人間の素晴らしさを発揮できる社会を実現していく力となるものです。とりわけ、人間相互の信頼関係をうたった連帯の精神が基盤となることで、自主性や民主主義が豊かにはぐくまれるといえるでしょう。

国民や地域と共に歩む中小企業をめざす

  1. 豊かな国民生活の実現に貢献するものであり、企業活動が理念と実践の上で反国民的であってはならないということです。かつて第一次オイルショックによる人為的な物不足により、日本国中が騒然としていたとき、中小企業家同友会全国協議会はいち早く「私たちは、便乗値上げ売りおしみ等の悪徳商人にはならない」との声明を発表(1974年、第4回中小企業問題全国研究集会)したことは、私たちの経営の基本姿勢を表明したものです。
  2. 中小企業はすぐれた製品やサービスを提供し、人々の暮らしの向上と地域経済の繁栄を保障するという社会的使命を負っています。地域と深いかかわりを持つ中小企業の発展は、雇用の創造の面でも、個性ある地域づくりの点でも大きな役割を果たしており、それだけに社会的責任も大きいものがあります。この社会的使命感と責任感こそ大切にしたいと考えます。
  3. 地域は今さまざまな問題をかかえています。私たちはそれぞれの地域において地域経済のバランスのとれた活性化に中小企業家の立場から提言し、かつ自治体や地域の人々と共に地域おこし、まちづくりに行動することが必要と考えています。

 日本経済における中小企業の役割は、生産で60%、流通で80%、就業人口では70%近くを占め、まさに日本経済の主役といえます。このように、中小企業こそ日本経済の真の担い手であり、国民生活、地域社会、文化を支え豊かな国づくりの柱としての責務を負っています。中小企業の経営基盤は国民生活や地域と密接に結びついており、それらとの信頼関係がなければ中小企業の発展はありえません。
 同友会がめざす、「国民や地域と共に歩む中小企業」とは、第一に、豊かな国民生活の実現に貢献するものであり、企業活動は反社会的、反国民的であってはならないということです。
 かつて第一次オイルショックの時、人為的な物不足が発生しました。中同協は「決して悪徳商人にはならない」との声明文(1974年、第4回中小企業問題全国研究集会・長崎)を発表し、同友会がめざす企業の経営姿勢を明らかにしました。バブル崩壊以降も一部大企業の不祥事が相次ぎ、近年も「偽装」事件等により企業モラル喪失への国民の企業不信が続いています。私たちは、同友会理念を企業の根幹にすえて経営をすることこそ顧客、ひいては国民や地域の期待にこたえる道であると考えます。
 第二に、中小企業の社会的使命は、すぐれた製品やサービスの創造、提供を通じて、人々の暮らしの向上と雇用の場の拡大をはかり、地域経済の繁栄に尽くすことにあります。中小企業の発展は、雇用の創造はもちろん個性ある地域文化の形成や人材育成に大きな役割を果たしており、その担い手、推進者としての自覚を大切にしたいものです。
 第三に、中小企業は地域経済振興のために活躍することが期待されており、同友会はその中心となって活動を進めることが必要になっていることです。
 経済のグローバル化による産業構造の転換、空洞化の進展は経済の一極集中を招き、加えて少子・高齢社会となり人口減少は地域を深刻な状態にしてきています。同友会はそれぞれの地域において、地域経済の活性化に積極的に提言し、行政機関、経済団体、金融機関、教育・研究機関、市民団体と連携し、地域おこしを共に進め、国民一人ひとりの幸せを大切にする経済社会をつくっ ていかねばなりません。

 「国民や地域と共に歩む中小企業」の理念を自社の経営のあり方としても追求していくことが求められています。


注1: 同友会理念:1990年中同協第22回総会(香川)にて採択。「三つの目的」、「自主・民主・連帯の精神」、「国民や地域とともに歩む中小企業をめざす」の3つを同友会の基本理念として明確にしました。理念とは、「価値判断の基準となる根本的な考え方」の意味ですが、単に抽象的な概念として存在するのではなく同友会理念は、戦後の中小企業運動を担ってきた先人たちが熱い思いのもとに長い時間をかけて創り上げてきたものです。運動の理念としてだけでなく経営の理念として実現の追求をしていくものです。

注2: 同友会の生いたちと展望:1973年、中同協第5回総会(愛知)で、「同友会の理念について」というテーマで審議され、採択された文書。その中に、今、私たちが掲げている同友会の三つの目的が明記されました。

注3: 労使見解:戦後、活発化する労働運動の中から生まれた「総資本対総労働」の考え方が中小企業の労使関係にも波及し、中小企業経営者は、激発する労働問題対策に苦しみました。その対応のために同友会の先達たちが10数年の経験を踏まえて1975年に確立したものです。労使の信頼関係こそ企業発展の原動力であるとする企業づくりの基本文書です。
中同協発行『人を生かす経営』所収。

注4: 科学性・社会性・人間性にもとづく経営理念:1981年、中同協第13回総会(兵庫)方針では、「経営理念には、科学性、社会性、人間性の三つの要素がなくては、すべての人が納得し自ら確信するものになりにくい」とされ、1988年に中同協が発行した『実践的な経営指針の確立と成文化の手引き』でこれらが定式化されました。同友会では「労使見解」の精神で科学性、社会性、人間性にもとづく経営理念づくりを進めています。(詳細は、中同協発行『経営指針成文化と実践の手引き」参照)

注5: 21世紀型中小企業:1993年、札幌で開かれた中同協第25回定時総会「総会宣言」で提唱されました。新しい世紀を前に、企業のあるべき姿を社会との関わりから発展的にとらえ、どのような人間集団をめざすのかという提起に共感が広がりました。

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